第一章
「それにしても運がいいな〜幸は。」
小川信彦が言った。
深田幸治はニッと笑って見せて、
「ま〜ね。まさか商店街の福引でまさか特賞の豪華ホテルの宿泊券が3人分当たるとはなぁ。」
「幸は本当によく福引当たるな。この前はなんだっけ?PSS2当たってたよな?」
「え?ああ、あれね。あのゲーム機持ってたから別に要らなかったんだけど…。多分店の在庫の整理じゃないかなぁ…最近薄型の奴でたし…。持ってないらしいから谷本にあげたよ。」
「…………。」
谷本健はコクリとだけうなずいた。寡黙な男なので滅多に喋ることはない。
今この三人は豪華ホテルサントールの5階廊下を歩いていた。理由は幸治の発言通り福引のせいである。
このホテルは都市から若干離れた山のふもとにそびえ立っていて夜景が綺麗だと評判の20階建てホテル。
ディナーなどすらついてない上そこまで行く分の交通費も自腹という半ば詐欺的な宿泊券ではあったのだが。
連日連夜金持ち達がパーティを催して集っているという噂だ。
恐らく宿泊費が高いだけにそこまでお金がまわらなかったのであろう。
とりあえず三人は1階のフロアで売店やらゲーセンやらを探検しに行く途中だった。
エレベーター前まで行き、エレベーターの到着を待っている。そしてドアが開き入ろうと思うと、
「あ!」「あ!」
ふいにダブる声。エレベーターの中に居たのは幸治たちのクラスメートの内野優だった。
彼女は黒いドレスのような服を身に纏っている。
「なんで小川君達がここにいるの!?」
「なんでって…幸が福引で当てたんだよ。ここの宿泊券。交通費は自腹だったけど…遠くなかったからとりあえず連休だし高級ホテルらしいから来てみたって所かな。」
信彦は素早く的確に答える。さすがに頭の回転は早い。
「え?あの商店街でやってたしょぼい福引?あれって特賞絶対入ってないと思ってた。」
「確かにハワイ旅行とかは入ってないかもね。交通費自腹とか…。」
「それじゃほとんど自腹だろ!」
幸治のボケに信彦が突っ込みを入れる。主に幸治がボケで信彦は突っ込み役だ。
「……………。」
こんな時でも谷本は沈黙を保っている。
坊主頭でキツネ目なので目を閉じてるように見えて精神統一してる修行僧のようにも見える。
「で、内野は何しに?なんかドレスっぽいの着てるけど…?」
「あ、私?私は父さんがパーティに呼ばれたからついてきたんだけど…。本当は来たくなかったんだけどね…。」
内野は何気に某大手新聞社の一人娘であり、家は言わずと知れた金持ちである。本人は全然そんな感じはしないが。
服装も黒いドレスではあるものの、高級感を無駄にアピールするのではなく自分に似合うものを選んでいる感じだ。
彼女は記者的な所があるのか知りたがり屋で喋りたがり屋である。一番敵に回したくないタイプだ。
「ふ〜ん…。で誰のパー…。」
「おやおや、君達こんな所で何をしてるんだい?」
幸治が言おうとした言葉を間延びした声が打ち消した。
「こ、この妙に人の言葉に上乗せして嫌な響きの声は…。」
幸治は露骨に嫌そうな顔をして後ろを振り返った。
そこにはひょろひょろとした感じの男が立っていた。
こいつは豪谷龍太(ごうたにりゅうた)。名前からいかにも、という感じだが父親は某大企業の会長。大金持ちの息子である。
高校生という身分にそぐわない外国ブランドのタキシードを身に纏い、髪は整髪料を使ってテカテカのオールバック…。
指には何かと指輪がついており、腕時計さえもセンス悪い金色に光っている。
本人はこれでセレブ感を表現したいらしい。要するに金持ちの見栄っ張りの見せたがりや。嫌な奴だ。
対照的に内野も金持ちではあるが本人はそれを自慢しようとはしないし、その特権を使う時にも豪谷のような毒はない。
「オイオイよしてくれよ〜クラスメートのこのボクの声を嫌な声だなんて…。」
「ははは…。」
幸治は苦笑いしながら、十分嫌な口調してるだろうが、と心の中で思った。
こいつの困る所は、他人が嫌がっていることが全くわからないところだ。ここまで来るともう才能と言ってもいいだろう。
「どうせ内野さん以外の君達はやることないんでしょ?庶民の君達にとってはここのレストランは高いからね〜。君達がかわいそうでしかたないからこのボクの誕生日パーティーに招待してあげるよ〜。食事もついてるよ。」
と言ってタキシードの上着をおもむろにめくって胸ポケットに入った丁度三枚の招待状と思しき封筒を(豪谷的に)セレブっぽく抜き取ると幸治たち一人一人に手渡した。
「ヲイ、豪谷!俺これ…」
「ハハハ〜。いいっていいって。礼には及ばないよ。友達だろ〜?当然のことぢゃないか〜。」
また言葉が重なった。要らない、って言おうとしたのに…。と幸治は思った。
よくよく見てみると招待状の封筒にはご丁寧に名前まで書いてある。
「このホテルはボクのパパがやってるようなものだからね。必要なことがあったらなんでも言ってよ〜。ハハハハハハ…。」
思いっきり自慢げに高笑いをしながら振り返って去っていった。
「ホント、強引だよなぁ…。皮肉言いまくってることに気がつかないのかね〜あいつは。」
幸治がつぶやいた。
「ハハハ…。本当に人の話聞いてないね…。さっき豪谷が”内野さん以外”って言ってたけどまさか…。」
信彦が聞くと、
「うんそのまさか。その豪谷家のお息子さんのお誕生パーティーにお呼ばれしてる訳。父さんが世話になってるらしいし…。」
内野は淡々と答えた。
「やっぱり…。って事は豪谷、もしかしたら俺達もパーティーに誘うためにこの招待状作ったのかも…。」
「え?何で?」
信彦の推理に幸治が尋ねる。
「だって豪谷さっき”このホテルはパパがやってるようなもの”とか言ってたろ?って事は俺達が今日予約してたことも知ってたのかも知れない…。」
「え〜?だからここで俺らを招待しようと張りこんでたって事?だったら学校で言えばいいのに…。」
「さぁ?豪谷はそういうことしたがらないから…。できるだけ”セレブ”っぽく招待したかったんじゃ…。」
「ハハハ…金持ちのクセにマメなことしてるね〜。」
同意する幸治に谷本が無言のまま、コクンとだけうなずいた。
「ま、どうせ俺達は行く場所ないんだし…。交通費で金もそんなに持ってないからやっぱり豪谷のパーティに行っとく?」
「…なんかあいつの思い通りになってるみたいで癪に障るけど…。ま、行ってやってもいいか。」
「じゃ、私が案内するよ。どうせ一人で行ってもオジさんが喋ってるだけで暇そうだし…。」
内野が言った。
「え?でも俺達正装なんか持ってないけど…。」
幸治が怪訝そうに言う。
「確か一階のフロアにタキシード貸してくれるところがあったからそこで借りればいいじゃない?」
「だから俺達金がないって…。」
「あ、じゃあ私のカードで払えばいいでしょ。」
淡々と言う内野に、幸治は、やっぱり内野も金持ちか、と思った。
作者のコメント
え〜大変お待たせいたしました。とりあえず急造ではありますが探偵幸治の第一章をお届けします。
さっそくですが現段階では事件が全く何なのかわかりませんね。もう少しだけお待ち下さい。多分三章くらいで事件が…(遅
しばらく暇な章が続きますがもうしばし辛抱くださいますようよろしくお願いします。本当はもう少し壮大な事件だったのですが。
作者の労力の関係で連続殺人事件ではなくなってしまいました。殺人のトリックはこれから短編でバラに出してくつもりです。
今回のトリックは結構ヒントを出して行こうと思っているのでもしかしたら皆さんも簡単に推理できるかも知れません。
よろしければ掲示板にて感想を…ってこんな状態じゃ感想もクソもないので、とりあえず次をお楽しみに☆
